簡素ながらも威厳を感じさせる部屋は、おそらく国の中でも相当に高い地位にある者の執務室だろう。

 部屋の置くに存在する書類などの詰まれた机の中央に、一枚の報告書らしき書類が置かれている。

 以下はその報告書の文面である。

 

 

 

 

 

 

 

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トランスバール暦418年 ×月×日

 

 トランスバール皇国宰相 

ルフト・ヴァイツェン殿

 

 

 

 

 EDEN軍属准将 

タクト・マイヤーズ

 

 

 

 

現在NEUE全域で起きている内紛について

 

 

 

 

(1)発端  事の始まりはルーンエンジェル隊隊員二名(※1)アームズアライアンス公女ナツメ・イザヨイとの衝突であった。

        もとより、かの公女との関係は良いと言えるものではなく、些細な衝突は日常茶飯事であり、他の隊員が取り繕っていた。

        そして、両名が耐え切れなくなり、戦闘中にナツメ氏の乗機、RA−006・パピヨンチェイサーを狙撃するという事件が勃発(※2)

        そのため、両名及び他の隊員達を軍法会議へと招集、下された判決は両名を処刑処分、他の隊員に関しては終身刑となった。

        しかし、執行日当日に両名はそれぞれの乗機、RA−002、RA−005を奪い脱獄。他隊員達もこれに続く。

        その後、NEUEの何処かに潜伏、ゲリラ活動を続ける。これにより各国間の流通などが断たれる。

        この際、国交問題が生じかけるが脱走兵となった六名への追跡を優先、現在はその問題には触れられていない。

        ※1…アニス・アジート少尉およびリリィ・C・シャーベット中尉の二名。

        ※2…リリィ・C・シャーベット中尉の乗機、RA−002は長距離狙撃型の機体であり、狙撃を行ったのは彼女ではないかと言われている。

           アニス・アジート少尉の乗機、RA−005は近接高機動型であり、狙撃には向いていない。

 

 (2)現状  六名は三組に別れて潜伏した模様であり、軍本部は一個大隊を率いて各個撃破していく方針を固める。

        しかし、一組を攻撃している間に他二組が参戦し僅か五機(※3)の紋章機に一時間で殲滅された。

        その後、軍の情報網が麻痺してしまったため、復旧までの間に何が起きたのかは詳しくは不明である。

        情報網の復旧時には、既にNEUE各国政権は崩壊し、戦国と呼ぶに相応しい状況と化していた。

        その中で有力な勢力と呼べるものは三組。奇しくもかの三組がそれぞれの勢力の代表である。

・紅巾…アニス・アジート少尉を頭領する集団。副官にナノナノ・プディング少尉がいる。

構成員は赤い布を身に着けている。

        ・蒼天…リリィ・C・シャーベット中尉率いる集団。副官にカルーア・マジョラム少尉を抱えている。

         構成員は青い布を身に着けている。

        ・杏樹…アプリコット・桜葉少尉とカズヤ・シラナミ少尉が率いる集団。二人の共同統治となっている。

         構成員はオレンジ色の布を身に付けている。

        ※3…カズヤ・シラナミ少尉の乗機、RA−000はRA−001の補助に徹していたため。

 

 (3)対応策 内乱は続いているが、外部(つまり我々側)からの攻撃に関しては、一致団結して対応してくる。

        そのため、一個大隊が壊滅されられたのも納得がゆく。対応策としては、一個師団を派遣するべきかと。

       (以下の文章は手書きである)

        ムーンエンジェル隊を再編してください〜!! じゃないと勝てません〜!!

 

 

 

 

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 そして、その机を挟むようにして二人の男が立っている。

 一人はトランスバール皇国宰相、ルフト・ヴァイツェン。その対面は彼のかつての教え子、タクト・マイヤーズ。

 室内に漂う空気は他のものを一切寄せ付けようとせず、両者共に微動もせず、時間だけが過ぎてゆく。

 それを見る者がいれば、これは…絵になる光景だ。と言ったことだろう。

 しかし、不幸にして、そして幸運なことにこの光景を見る者は当事者以外にいなかった。

 とてつもなく長い時間が過ぎたように感じるが、実際に過ぎ去ったのはほんの数分程度。

 ため息を一つ吐いて、ルフトは重い口をゆっくりと開き…こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんのばかもんがぁぁぁぁっ!!」

 

 

 それはまさしく怒れる獅子の咆哮の如く、はたまた近所のカミナリ親父の雷の如く。

 余談だがこの時、窓の外では一回だけ落ちたらしい。その日は雲一つ無い、気持ちのよい晴天であったにも関わらず、だ。

 それまで背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐにルフトを見ていたタクトがビクッと震えて…普段の表情を見せる。

「ばかもんって言われても…仕方ないじゃないですか!!」

 一個大隊を壊滅させるほどの技量を持っているとは、誰も思っていなかったから…。

 見苦しい言い訳だと分かっている。しかし…。

「仕方ない、で済む問題では無かろうが!! ムーンエンジェル隊を再編しようとなると大変か、わかっとるのか!!」

「そっちですか!!」

 思わずツッコミを入れるタクト。一個大隊を壊滅させられたことはいいのだろうか…?

 真面目に考えれば、軍の予算的にかなりの痛手だろうが…。

「別に構うまい…。所詮は名前無しの将校達が率いていた部隊じゃからな…」

「あー…確かに。うわー、駄目だー。って、棒読み気味に散っていきましたよ」

 同時に深いため息。所詮、名前無しの存在に彼女らを止めることなど出来ないのだろう。

「まあ、よい。ムーンエンジェル隊再編の件は、ワシがどうにかしよう」

「感謝します、ルフト先生」

「その代わり…、必ず…絶対に何とかするんじゃぞ、タクト」

 その目は「もうお前しか頼れる奴はおらんのじゃ…」そう言いたげだった。

 

 

 

 

 そして…かつてのメンバーを集めるために東西へ奔走するタクト。

 

 

 

 

「かくかくしかじか…で、リコも」

「リコは、とてもいい子なんです!! だから、あたしが言ったらわかってくれるはずです!!」

 タクトが言い終えるよりも先に叫びだすミルフィーユ。

ミルフィーユ・桜葉、話を切り出して10秒で確保に成功。

 

 

「そんな面白い…じゃなくてヤバイ状況見に行か…じゃなくて止めなきゃ!!」

「ランファ…、本音が透けて見えてるよ〜…」

 ランファ・フランボワーズ、同じく10秒で確保に成功。

 抑えきれない好奇心が透けて見えるのだが、鉄拳をもらいたくないので黙っておこう。

 

 

「あらあら、それは困りましたわねぇ」

「…困ってるとか言ってる割に、顔は笑ってるね…」

「それはタクトさんの気のせいですわ。この騒乱が終わるまでと言う条件でなら、軍に復帰してもいいですわよ」

 ミント・ブラマンシュ、何やら企みながらも確保に成功。

 …きっと、よからぬことを企んでいるのだろう。

 

 

「…はぁ!? そりゃ本当かい!?」

「こんな嘘吐いたって仕方ないだろぉ〜?」

「仕方ないねぇ…それにしても…とんでもないことしてくれたもんだね」

 フォルテ・シュトーレン、ぶつくさ言われながらも確保に成功。

 

 

「それで…」

「行きます」

「…まだ何も言って無いんだけど…。まあ、いいか」

 ヴァニラ・H、5秒で確保に成功。

 しかし何も聞かずに即答するか、普通?

 

 

「というわけなんだよ…」

「先輩達が皆行くのであれば、私だけ断るわけにもいきません。もちろん、行きます」

「ありがとう、ちとせ」

 烏丸ちとせ、普通に確保成功。

 

 

 タクトがムーンエンジェル隊メンバー全員を確保するまでにかかった時間……30分。

「ちょ、何でそんなに早いのよ!? 皆、居る場所はバラバラのはずでしょ!?」

 ランファが虚空に向かって何やら叫んでいる。どうして誰も居ない場所に向かって叫ぶんでしょうねぇ。

「こらっ!! ナレーション、出てきなさいよ!!」

 いや、無理だって。

「…ランファ、止めときな」

「フォルテさん…」

 ランファの肩をポンと叩き、どこか諦め混じりに、しかし優しげにフォルテは言う。

「誰もいない場所に向かって吠えたって、正気を疑われるだけだよ」

「ちーがーいーまーすー!! ちゃんといるんですって!! 見えないだけで!!」

「ランファ〜…、何で怒ってるのか分からないけど…ちゃんと現実を見ようよ。ね?」

 ミルフィーユさえも哀れむような目でランファを見ている。

「うるさーい!! アンタにだけはそんな目で見られたくないわ!!」

 怒りで顔を赤く染めながら、ランファはミルフィーユのこめかみを拳でぐりぐりと…。

 手加減なんてしてないだろうから、このままだと、きっとミルフィーユのこめかみは凄いことになるだろう。

 そしてそれをミントは楽しげに、フォルテは呆れながら、ヴァニラは無表情に、ちとせはおろおろしながら見ていた。

 そしてそれを見ながらタクトは思った。

「…大丈夫かな?」と

 

 

 

 

 一方、その頃NEUEでは…。

 

 

 

 

「…大変なことになっちゃったよねぇ〜」

 ため息と共に、カズヤが言う。腕にはオレンジ色のリボンが巻きつけられている。

「仕方ないですよ、あのまま脱走しなかったら、私達全員終身刑と処刑だったんですから」

 そう言いながらも、アプリコットもため息を一つ。カズヤと同じように、オレンジのリボンを腕に巻いている。

 他にもっとやりようが無かったものだろうか。つい考えるのはそればかり。

 とはいえあの時アニス、リリィと一緒に逃げていなければ、残り一生をずっと塀の中で過ごす羽目になっていたわけで。

 この歳で、そんな夢も希望も無い人生など嫌だ。それに関しては全員一致していた。

「けどさ…、その後何をどうやったらこんな事になるんだろうね…」

「それは私が知りたいですよ…」

 今度は二人揃ってため息を吐く。

 脱走して、何をどうしたら各国政府が潰されて、世界の覇権を巡って三つの勢力に別れて内乱をしているのだろうか。

「それでも、こうして独立勢力を率いる以上、目指すは世界統一ですよ!!」

「…別に世界を統一しなくても…、内乱を終わらせればいいんじゃないかな?」

 やや消極的な姿勢のカズヤに対して、アプリコットは…。

「ですけど…もしアニスさんやリリィさんの勢力が世界統一したら…それこそ大惨事かと」

「…そうだね」

 とんでもなく混沌とした世界か、堅苦しすぎるような世界になりそうな気がする。

 それなら、自分達が世界を統一したほうがマシなんじゃないか…。

「だとしてもさ、内乱を終わらせることを考えようよ?」

 世界統一なんてしても面倒だし…という言葉は飲み込んで。

「そうですね…。世界を統一したところで、面倒そうですしね」

 爽やかな笑顔で、アプリコットはそう言った。

 面倒だって思うなら、最初から世界統一なんて言うなよ…。

 同じように爽やかに笑いながらカズヤはそう思ったとか、思わなかったとか。

 

 

 

 

 その頃…。

「痛み分けってとこか…。ったく、全然勢力図も変わらないな」

 モニターに表示された勢力分布は、どことも均衡状態だということを示している。

 つい先ほどまで、『蒼天』と戦っていたのだが、結果は痛み分け。

 その隙に、アプリコット、カズヤの率いる『杏樹』が攻め入ってこなくてよかった。

もっとも現在は専守防衛を旨とするあの集団が『紅巾』なり『蒼天』に攻める気配は無い。

「手を組むなり、支配下に置けりゃいいんだろうけどなー…」

 頭をバリバリと掻き毟るアニス。ちなみに彼女は真っ赤なスカーフを首に巻いている。

「親分、どうしたのだ?」

 それを横から覗き見るナノナノ。同じように真っ赤なスカーフを巻いている。

「んー…、リコのとこと手を組めないかなーって思ったんだよ」

「そしたら、一気にリィちゃんとカルーアを潰せるのだ?」

「そうなんだけど…あいつ等が俺達と手を組むとも思えないしな…」

 仮にも独立勢力を率いているのだ。狙っているのは世界の覇権に決まっている。

 それなら協力しようといずれは裏切るか裏切られるか。そんなのは面倒。

なら、支配下に置いてしまえばいいだろうけれど、『杏樹』を攻めている間に『蒼天』に『紅巾』の領域を取られたら本末転倒。

とはいえ、その場合は自軍所属の紋章機が増えるので、ある程度はやりあえるだろうが不利に変わりは無い。

『蒼天』の総大将リリィより、副将のカルーアのほうがある意味で怖い。

何というか…どれほど常識離れしたことをしても「魔法ですから〜」とかで済まされそうな気がするからだが。

「なら、こっちはロストテクノロジーで対抗すればいいのだ」

 確かに、それはそれで同じように常識離れしたことをしても、「ロストテクノロジーだから」の一言で済ませられるだろうが。

「…そんなんでいいのか、この世界は?」

 少しだけ、この世界の行く末が不安になったアニス。そりゃ不安にもなるだろう、少し前までシリアスな世界の住人だった日には。

「それでいいのだ。どうせ、真面目なお話じゃないから強引な理屈で大丈夫なのだ」

 何でもかんでもそれで済ませるわけにはいかんのだけどね…。

「そうだな…。じゃあ、何か一発すげーロステク見つけて、とっととあいつ等潰すとするか」

 ギャグの世界では、どれほど不条理なことが起きようと疑問を持っては、悩んではいけない。

 何事も順応性。とりあえず長いものには巻かれておけ、ということだ。

 

 

 

 

 

 同時刻、某所にて。

「困ったな…。今度の戦いも、また引き分けだ。このままでは、何時まで経てども内乱は終わらん…」

 『紅巾』の総大将と同じように、モニターを見つめながらボソリと呟くリリィ。彼女は青いマフラーを巻いている。

 その隣では、何を考えているのかカルーアがにこにこと笑いながら立っている。

 ここまで来ると説明不要かと思われるだろが、やはり青いマフラーを巻いている。

 もしかしたら、NEUE全域を巻き込むほどの規模でなければ、カラーギャングの抗争で済んだのかもしれない。

「EDEN側でも不穏な動きがあるようだな…。また、手を組まざるを得ない可能性が出てくるな」

 内部で争っていても、外部にはかつての団結力でもって抗う。というかもはや、それ以外では団結出来ないのか…。

「当たり前だ。EDEN側に干渉されてたまるか。NEUEのことは、我らNEUEの民が決める!!」

 剣を抜き放ちながら、カッコよく言う。が、実際のところは自分が世界の覇権を握りたいだけだろうが…。

「カッコいいですわ〜、ダーリン」

 気の抜けたいつも通りの声でカルーアが言うので、見事に前のめりに転びかける。

 カッコつけてる時にそんなのんびりした声で、なおかつそんなこと言われたら転びたくもなるだろうが…。

「そして私は女だ!! そんな風に呼ぶな!!」

 剣を抜いてぶんぶん振り回しながらカルーアを追い掛け回すリリィ。

 しかも、顔は真っ赤だ。

「何でですか〜?」

 それを涼しげな顔でひょいひょい避けながら、カルーアはのんびり口調で尋ねる。

「ダーリンをダーリンと呼ぶことの、何が悪いんですか〜」

「全部だ、全部!! というか私とマジョラム少尉はそんな関係ではない!!」

「あら、別にアタシはそれでもいいんだけど?」

 瞬きを一回するかしないか、その僅かな時間でいつの間にやらカルーアからテキーラに入れ替わっている。

「いつの間に、なおかつどうやって入れ替わった!!」

「少しは落ち着いたら? そんなに怒鳴ってばかりだと、血管切れるし…二枚目が台無しよ?」

「同性からそのような言葉をかけられても嬉しくとも何とも無い!!」

 その後しばらく、怒鳴り声が止むことは無かったという。

 その時の様子を見ていた構成員は後ほどこう語った。

「うちの大将と副将は、いつもあんな感じですよ。そっち系の疑惑もありますね。…まあ、本人の前で言ったら殺されますが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある意味でNEUE史上最大にして最悪の時代は…まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あとがき

 掲示板での冗談から始まった長編、三国志シリーズがとうとう開幕です(笑)

 とりあえず、第一話でした…が、やはり自分のギャグセンスの酷さを実感しています。頑張って書いていくので、読んでいただけると幸いです。

 これといったプロットは組まず、こんなシーン書きたいなーと言ったメモを頼りに書いているので、何話まで行くか不明です(苦笑)

 最後のシーンはもう少しテキーラで遊びたかったなぁ…と思ったのですが…いい加減、リリィが可哀想なので止めました(笑)

 ダーリン発言はラジオネタだし…12月の…。分かる人だけ笑ってくれたら嬉しいかな、と。