もうすぐハロウィンの時期とあって、シュガー村の人々も少し慌しい毎日を送っている。
時間の猶予が少なくなっているとはいえ、余裕を無くしてしまったら終わり。
楽しむべきは楽しむ、と女神様ものんきにそれを見守ることにしているようだ。
「うーん、やっぱり彫刻刀じゃ無理か…」
目の前にドンと置かれた巨大なかぼちゃを前に、トーイは腕組みをして悩んでいた。
ハロウィンに必須のかぼちゃお化け、ジャック・オー・ランタンを作ろうとしているのだが、いかんせん上手くいかない。
中を完全にくりぬいて、皮だけとはいえ、かぼちゃの皮は固い。小さな彫刻刀では刃がたたない。
「…鎌を使うわけにもいかないし…」
草刈用の鎌をかぼちゃ彫りに使うのはどうかと思うが…。
とにもかくにも、床に散らばるかぼちゃ全てを、当日までにジャック・オー・ランタンに仕上げなくてはならない。
「三食かぼちゃだけど、我慢しような、アルフ」
「?」
苦笑しながらトーイは言うが、アルフは疑問符を頭に浮かべるだけだった。
ハロウィンと言うと、子どもがお化けなどに仮装し、「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」と、近くの家々を回るというのが一般的だが、
子どもの少ないシュガー村では近所の人に、かぼちゃで作ったお菓子等を配ったりするくらいだ。
それ以外ではやはりジャック・オー・ランタンを作り、玄関先に置くという点は変わりはしない。人によっては、幾つもジャック・オー・ランタンを置いたり、
大人であっても人によっては仮装する人もいるが。
「とりあえず…、うちの近所だからシンとハヤトにはあげないといけないわよね…」
料理本を眺めながらのんきにケティは呟く。
上記の通り、シュガー村でのハロウィンは大雑把にやるため、一部バレンタインと混じっている箇所もある。
具体的には、送るのがチョコレートでなくかぼちゃのお菓子という違いはあれど、近所だけでなく仲の良い、もしくは気になる男にあげる女の子は少なくない。
「でも…うーん…」
何を作るべきか、延々と悩むケティを見ながら、ウォールは心の中でシンに対して合掌するのであった。
「よっしゃ、出来た。これでバッチリだ」
ウォールに心配されている当の本人はというと、何も知らずにジャック・オー・ランタンを作っていた。そしてその隣ではハヤトがやはり黙々とかぼちゃを彫っている。
「我ながら完璧の出来具合だ」
「…兄貴、大丈夫なのか?」
作業の手を止めることなく、そちらを向くこともなく、ハヤトが兄に尋ねる。
同じように、シンもそちらを向くこともなく軽く答える。
「大丈夫だって。この三日月型の口の不気味さ、吊り上った目、どれを取っても完璧なかぼちゃお化けだ」
「そうじゃない。…当日は、きっとケティから菓子をもらうだろう?」
そうハヤトがボソリと言った瞬間、シンは瞬間凍結してしまった。
手に抱えていた、かぼちゃも床に落としてしまった。幸い、割れることはないが。
「そ、そうだな…、それは…大丈夫だ。去年に比べて、胃は丈夫になっている…はず」
多少、自信なさげにシンは言う。
そんな兄を見て、ハヤトは一言。
「胃薬を用意しておくか?」
シンは黙ったまま、カクカクと首を縦に振った。
一方、村はずれのクローブ家の別荘のほうでも、準備に勤しむ者が…。
「マーサ、少しいいかしら?」
「あら、どうなさいました、お嬢様?」
台所で何かを煮込んでいたマーサの元へ、ディアがやってきた。
この場に居ないジーナは、ジャック・オー・ランタンを作っている。
といっても、トーイやシン、ハヤトがしていたように実際にかぼちゃを彫っているのではなく、柔らかい布を丸めたものを中心に入れて、
それをオレンジ色の布で包み、目と口をつけたものだ。
手のひらに乗る程度のサイズの物を幾つも作っている。村の住人たちに配ってまわるのだろう。
「…あの…、料理の仕方を…教えてもらいたくて…」
つっかえつっかえ、ディアはそう言う。
「料理ぐらいでしたら……、ああ、そういうことですね」
不思議そうに、首をひねりながらマーサは言うが、途中でディアが言いたかったことを察したようだ。
「ハロウィンですから、パンプキンパイでも作りましょうか」
笑顔で、そう告げた。
そして、その日がやってくる…。
「ばう!ばう!」
「中々似合ってるぞー、アルフ」
愛犬にかぼちゃを被せて、笑っている牧場のもとへ。
「兄ちゃん、何かくれよー」
ミイラ男のように、白い布を全身に巻きつけたティムがやってきた。
背負ったリュックはそれなりに膨らんでいる。あちらこちらからもらってきたのだろう。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞー、兄ちゃん!」
「ちょっと待ってね、先にアルフからかぼちゃ取ってあげなきゃ…」
アルフは「前が見えないー!!」と言わんばかりにぐるぐるとあちこちを走り回っている。
「えー、可愛いから取るのもったいないぜ、兄ちゃん」
「ばう!!ばう!!」
そんなこと言うな!といわんばかりに吠えるアルフだが、全然見当違いな方向に向かって吠えている…。
そんな犬を見て、トーイとティムは思い切り笑うのだった。
「はい、シン。それとこれがハヤトの分ね。ちゃんと渡しといてね」
「あ、ああ…、ありがとう…」
ケティから渡された袋包みを、ぎこちなく受け取るシン。
が、ケティ自身はそんなシンの様子に気がつくこともなく、いつものように、手を振って行ってしまった。
ケティが見えなくなるまで、そちらをじっと見ているシン。
そして、完全に見えなくなったところで、恐るおそる包みを開けて、中を見てみる。
一応、見た目は大丈夫そうなクッキーが入っているが…。
「…食ってみないとわからねえよな…」
思い切って、一枚口に放り込んでみる。
焼きたてなのか、まだ温かく…。
「お、結構まともじゃん」
そう呟いた直後だった。
…地獄は、時間差でやってきた。
「…やっぱり…、こんなオチかよ…」
気を抜いたら、恐らく明日の朝まで気がつきそうにない。
せめて…、職人小屋まで戻らなくては…。
その一心で、シンは鉛のように重い身体を動かし、地平の彼方まで吹っ飛んでしまいそうな意識を繋いでいた。
必死で職人小屋まで戻ってくると、ハヤトとウッドが出迎えた。
そして開口一番に。
「大丈夫か?」
「胃薬はそっちだ」
と言った。何があったのか、もう察してくれたらしい。
「ああ…大丈夫じゃない…。とてもじゃないが…死にそうだ」
毎年のことだというのに…今だ慣れることはない。
「…口直しに食うか?」
そう言って、ハヤトはパンプキンパイを一切れ差し出した。
それを受け取り、口に運びながら誰からもらったのかと尋ねる。
「ディアからもらった。不味いと言ったら、兄貴でもしばく」
「…ん、不味くはないな」
サンガーデンで食べられるケーキよりは劣るが、先ほどのケティのクッキーに比べたらマシといったところか。
「まあ、でも…美味いとも言えないな」
そんなことを言いながらも、とっとと最後の一口を放り込んだ。
「…殴るぞ、兄貴」
「…んなこと言っても、お前も無表情に食ってるし…」
実際、ハヤトは無表情にガツガツと噛り付いている。その表情から察するに、やはり美味いと思っているわけではあるまい。
「ディアの手作りなんだ。その気持ちを考えれば、とても美味い」
「無茶苦茶言ってるよ…」
「だから兄貴もケティの気持ちを考慮して、それを全部食え」
「…二、三日かけて、しかも胃薬飲みながらで良ければ全部食うさ…」
「にしても…、兄ちゃんも結構もらってるよなー。まるでバレンタインみたいだな」
家に上がらせてもらい、お茶を飲んでいるティム。
アルフもテーブルの上に置かれた袋包みに目を向けている。
「うん、皆作りすぎたとか何とか言ってくれたんだよ。ちゃんと分量考えて作ればいいのに」
「ばう、ばう」
そうだそうだと言いたげに、アルフが吠える。
「一人と一匹で食べるのは多いから、少しあげようか?」
「いや、いんない。兄ちゃんがもらったんだから、兄ちゃんが食うべきだよ」
「でも本当に多いんだけど…」
「大丈夫だって、兄ちゃんなら食いきれる!」
「ばう、ばう!」
「いや、お前に全部やるわけにはいかないから…」
いざって時は全部自分が食う!と言いたげに吠えるアルフに、苦笑しながら言うトーイ。
そして、そんな能天気な村の様子を眺めながら…。
「もう残された時間は短いけど…、まあ、大丈夫よね」
女神様がそう、呟いていた。
近くにはコロボックル達も居て、皆でクッキーを食べていた。
それは、村で唯一コロボックル達の存在を知っているトーイが焼いたものだった。
「きっとトーイなら、何とかしてくれるのー」
「そうね。何とかならなかったら…、夜な夜なトーイの夢枕に立って恨み言を言ってあげようかしら」
「…トーイが可哀想なんだな…」
「あら、大丈夫よ。村が潰されなきゃいいだけのことなんだから」
まだ、時間はあるから。
今はのんびりと騒がしい雰囲気を楽しもう。
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あとがき
時事ネタ、ハロウィンに挑戦してみました。
シュガー村は子どもが一人だけなので、必然的にバレンタインみたいなハロウィンと化してしまいました。
まあ、これはこれで楽しそうなのでよしとしましょう。
が…カザンやサラ、ルーンにライラ、バジルがいません…。
えーと、すいません、これは出しにくかったらとか色々と私の勝手な事情によるもので…。
上記五人のファンの方、本当にすみませんでした!!
いずれクリスマスとかのネタで埋め合わせをします!!